2011年4月10日日曜日

ヘッドホンとレコーディングメディアとマスタリング

日本から持ってきたヘッドホン。
なんだかんだで、もう18年以上使っている。


SonyのMDR-Z900という機種。発売は1992年というからもう20年近い。
最近ではMDR-Z900HDという機種に更新された様子。
当時の定価で2万5千円。
当時務めていた会社(音響関係)で、音響リファレンス(基準)用にと、高級ヘッドホンを数種類購入して、全部試聴した。その中の一番のお気に入り がZ900だった。


オーディオ機器というのは、あるお値段を超えると後は聴く人の趣味好みの問題。
他には10万円超えのヘッドホンとかあったけれども、私の好きな音を鳴らしてくれたのはZ900だけだった。
Z900は、締まった低音とヌケの良い高音が特徴。
DJ用と称して、重低音がウリのヘッドホンもあるけれど、ブーミーで好きじゃない。
CDプレーヤーのヘッドホン端子に差して、気持よく聴けるヘッドホン、それがZ900。


Z900以降もいろいろなヘッドホンを使ってみる機会があったけれども、結局Z900に戻ってしまう。
私の中ではリファレンスという位置づけ。
だから微妙な音の違いなんかもZ900だと、すぐわかる。
マスタリングでは非常に重宝している。


ヘッドホンは古いものを使い続けているが、マスタリングについては日進月歩が激しい。
30年前のレコーディングエンジニアが現在のマスタリング・ソフトを見たら、相当なショックを受けるに違いない。
30年前と言えば、カセットテープに録音していた時代。
(CDの登場が1981年。)
カセットテープというのは録音すると音が変化するシロモノで、今にしてみれば、よくもあんな不安定なメディアを使っていたものだと思う。
BiasやEQを調整して、できるだけ原音と同じように録音できるようにするのだが、だんだん調整が面倒になってきて、結局、一度調整したら、使 うカセッテテープのブランドと種類をいつも同じモノに統一した。


それとテープヒスノイズというメディア特有のノイズがあって、これを少しでも改善するためにノイズリダクションを使用した。ドルビーというやつ。 今でこそドルビーと言えば映画館やDVDのサラウンド音響システムのことを指すが、当時はドルビーと言えばノイズリダクションの代名詞だった。
ドルビーはタイプA、タイプB、タイプCとあって、カセットデッキに搭載されていたのは、ほとんどがタイプB。
タイプBではせいぜい10dBぐらいしかノイズを低減できないので、タイプC(20dB改善)を利用した。(タイプCを搭載したカセットデッキは ちょっと高かった)
本当はdbxというやつが欲しかったのだけれど、Sonyのカセットデッキでは搭載してなくて、そのうちHiFiビデオを使って録音するように なったので、ノイズリダクションシステムはどうでもよくなった。


HiFiビデオを使った録音の音質は素晴らしかった。
10万円近くするカセットデッキより、2〜3万円のビデオデッキのほうが音質が良かった。
しかもノンストップで2時間録音できる。
しかし、HiFiビデオよりも、もっと手軽な録音メディアが登場。MDである。
HiFiビデオでFM音楽番組を録音して、それをMDにダビング。MD機器でCMとかナレーションをカット。
好きな音楽をコレクションして、編集できる楽しみをMDは実現した。


パソコンを使って音楽を制作するDTMというのが一時期ブームになった。
いろいろなDTM制作用ソフトが開発されて、パソコンの性能もどんどん上がってきた。
Windows95が登場して、Windows98の頃にCD-Rが普及し始めたように思う。
このCD-Rによって、音楽CDをカンタンにコピーできるようになった。
CD-Rのおかげで、パソコンの性能がさらに向上し、数十MBという大きなデジタルオーディオデータをパソコンで取り扱えるようになった。
その時に、はじめてマスタリングソフトというオーディオ編集ソフトに出会って、市販の音楽CDの音を自分の好きなように変えられる(リマスタリン グ)楽しみを覚えた。
自分の車のカーステレオで聴くために、たくさんのオリジナルCDを作った。


リマスタリングの基本は、まず曲ごとの音圧を揃えること。
1枚のCDを作る場合、曲毎に音量が違っていては聴きづらい。
だからリマスタリングでは、まず音量(音圧)を揃える。
1枚のCDに収録する曲を全部聴いて、一番音の大きい曲に合わせて音量を揃える。
だが、この方法だと、CD毎に音圧が揃わないことが判明。CDチェンジャーでCD切り替わると音の大きいCDと小さいCDで差がでかい。
そこで、リファレンスとなるCDを決めて、その音圧に揃えることにした。


デジタルオーディオの世界では、単純に音量を上げただけだと、すぐ音が割れてしまう。
音が割れないように音量を上げる、という矛盾したことをしなければならない。
そこでリミッターとコンプレッサーのエフェクトを利用する。
当時の私が利用していたのはSteinbergのWavelabというソフト。
このソフトはVSTプラグインでソフトウェアのエフェクターを利用出来る。
いまでこそVSTプラグインは当たり前だが、当時はソフトウェアのエフェクターという概念は初めてだった。


音圧を上げるための基本は、リミッター。
音楽のピーク成分をこれで抑えこむ。
不自然にならない程度にリミッターのINPUT音量を上げていく。
ちょっと詰まった感じに聴こえたら、それはリミッターかけ過ぎ。
適当なところで妥協する。(この適当なところで、というさじ加減が難しい)


リミッターでがんばっても音圧があまり上がらなかった場合、コンプレッサーを使う。
コンプレッサーでは音のレベルが低いところを全体的に上へ持ち上げる。
そうすると聴感上の音圧が上がる。
ただし、コンプレッサーもかけ過ぎは音が詰まった感じになるので、適当なところで妥協することが大切。
圧縮率は、通常1:2ぐらいで。最大でも1:4ぐらい。1:8とかは無理無理w。それリマスタリングじゃないから。


音圧が揃ったCDはだいぶ聴きやすくなる。
これだけも素人聴き的には充分満足だが、そのうち曲毎の音質の違いが気になり始める。
やたら音がこもっていたり、なんか安物のラジオみたいに音が軽くない?なんて場合がそれ。
要するに低音や高音のバランスが悪いのだけれど、これを調節するにはEQを利用する。
EQといってもLowとHighだけのタイプではダメ。もっと細かい調整をする。
EQには大きくわけて二つある。
グラフィック・イコライザーとパラメトリック・イコライザー。


慣れないうちはグラフィック・イコライザーのほうが楽。
プラグインソフトを選ぶ時は、最低でも15バンドぐらいは欲しい。
グラフィック・イコライザーで重要なことは、どの周波数をいじれば、どの楽器の音に変化が現れるか、ということ。
例えば、63Hz=バスドラム、125Hz&250Hz=ベース、340Hz&400Hz=シンセサイザー、 1KHz〜4KHz=ボーカル、8KHz〜12KHz=ハイハット・シンバル
音がこもっていると感じる時、4KHz〜12KHzを持ち上げると音がはっきりしてくる。また、340Hz〜400Hzを下げると、音がすっきり と聴きやすくなる。
安物のラジオみたいに音が軽い時は、63Hz〜250Hz、それと、4KHz〜12KHzを持ち上げると、かなり改善される。


慣れてきたらパラメトリック・イコライザーを積極的に利用したい。
パラメトリック・イコライザーは自分で調節したい周波数とQと呼ばれる周波数の幅を決められるので、グラフィック・イコライザーよりも、かなり大 胆かつ細かい調整ができる。
例えば、「こんなぬるい音じゃなくて、もっとガツンとくるような音にしたいんだよね!」って時には、パライコで大胆にいじると、劇的な音の変化を 楽しめる。


Wavelabというマスタリングソフトを使ってみて、一番気に入ったのは、エフェクトをかける前と後の音をリアルタイムで切り替えられること。 いわゆる「ビフォア&アフター」というやつ。
友人にこれを聴かせると、あまりの音の変化に、必ず驚いてもらえる。
このビフォア&アフターを常に確認することは大事で、長時間音を聴いていると耳が疲れてくるから、結構エフェクトやりすぎだったりしたことに気付 かされたりする。
で、反省しながら微調整。まぁ、こんなもんだろう、と納得したところでレンダリング。
レンダリングというのはCPUでエフェクト処理をして、それをWAVファイルとして出力すること。
それに名前を付けて保存すれば、とりあえずリマスタリングは完成。


ここ10年以上、こんなことを趣味でやっています。
自分が学生だった頃からすれば、夢のような環境。確実に、当時よりも良い音質で音楽を楽しめている。
当時の自分に見せてあげたい。たぶん彼の人生は大きく変わっただろうに・・・妄想モード



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